一級建築士事務所 田野
建築設計室

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オープンハウス


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京都紫野に、中山大介さん設計のオープンハウスを見に行く。
少し感想を。

公園沿いを歩いていくと、黒い焼杉で覆われた端正な切妻屋根と低く抑えられた下屋根がみえてくる。
ひな壇敷地に対して雁行した二つの切妻屋根のひとつが一層分、道路レベルまで下げられアプローチとなる下屋根の低い天井高と相まって、建物がそそり立つことなくうまく抑えられている。端正にみえたのは、雁行配置したボリュームの間口も抑えられているので、敷地に対してゆとりのあるファサードに見えるからである。

黒い焼杉に対し下屋根の腰壁に使われている木地色の杉が美しい。住宅のアプローチというより、庭園にある東屋に入っていく感覚。ひな壇敷地でよく見る道路境界の石積みがここでは道路からセットバックしているので、東屋アプローチと共に開かれた印象を受ける。それに対し、切妻屋根のファサードは絞り込まれた開口部が1つあるだけで閉じた印象を受ける。この開かれた印象と閉じた印象が同時に内在していて、どちら側にも振り切らない状態がうまくバランスすることで、不思議な印象を受ける。

中に入ると、スキップした一番奥の部屋が見え、雁行して生まれた北庭からの順光が優しく入り込む。砂漆喰と杉で丁寧につくられた設えが心地よい。杉材は節や色合いからラフなイメージを受けるが、ここで使われている杉は空間に呼応するように品を感じる。天井に張られた目透かしのラワン合板も、ロータリーで削り出された美しい木目が活きた材料が選ばれている。施工をされた大工の笠松さん(杢工舎)と中山さんが長いお付き合いの中で蓄積された信頼関係が空間の隅々までいきわたっている。技術と感性を持ち合わせた職人と出会うことは設計者にとって、生涯の宝となる。

スキップをあがっていくと、厨房が見えてくる。厨房家具がラディカルなステンレスラックでざっくりつくられている。思っていた印象をうまく裏切られた。歩き回っていると、簡素ながら用の美を感じる骨董家具がそこかしこに点在している。よく見ると、ステンレスラックにもきれいに骨董家具が収まっている。時代こそ異なるが、用の美のもとに集まった家具としてとらえた時に、ステンレスのラディカルな家具と骨董家具との共通点が少しずつ感じ取れるようになってくる。
厨房から見る半階上がった広間と、北庭に抜けるテラス、半階下には最初の部屋。この場所が家の司令塔であり、家の全貌を見渡せるパノプティコンの視点となる。

スキップの最上階にある広間。アプローチから低く抑えられた天井高を経て、ここでは空間の幅(間口)に対して高い天井にかわり、開放感を感じる。北庭に対して低い重心でL型に腰窓が開いている。高い天井高の空間に水平方向に広がる和の印象の間戸。道路側は雁行配置で生まれた縦長の窓が書斎コーナーの明かり取りとなり、こちらは洋の印象の窓。広間にある開口部に限らず、それぞれの開口部がその場所の設えに合わせて、スタイルや様式にとらわれることなく柔軟につくられている。ただわずかに記憶の中で感じたことのある歴史につながるような設えを踏襲しているので、懐かしさと安定感がある。積み重ねられてきた歴史をしっかり押さえている印象。開口部だけでなく、素材、雁行配置、プロポーション、東屋など体験してきた空間を反芻していくと見えてくる新しい懐かしさが思い起こされていく。

住宅を感じさせない東屋、アプローチの時に感じた開かれた印象と閉じた印象、和を感じる水平の間戸、洋を感じる縦長の窓、砂漆喰と杉から受ける和の設えの中に、立体迷路のようなスキップフロア、ラディカルに存在する無機質な厨房ラックと味のある骨董家具、このどちらの印象も内在しながら、どちらにも振り切らない感覚がこの住宅の底を流れている。どちらかに振り切ることで、あるスタイルに辿り着く。辿り着くことで安定した状況に持ち込めるところを、どちらにも振り切らずにアンバランスな状態を維持することあるいは空間をコントロールすることには難しさが伴う。ここでは、前述したわずかに記憶の中で感じたことのある歴史の断片がうまく入り込むことで維持されている。この維持の仕方にこそオリジナリティが生まれる。アンバランスな状態を維持していることがあらゆる局面で働いているように感じた。

スキップフロアと雁行配置でシンプルな構成の中にうまく複雑な様相が入り込んで、懐の深い空間を体験しました。
いい仕事をみせてもらいました。

中山さん、笠松さん、ありがとうございました。



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