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下鴨の家
構造:木造 延床:125㎡(3LDK) 家族構成:3 施工:仮谷工務店
旗竿敷地に建つ木造新築住宅。
都市に住居を構える時、常に周辺環境との関係、とりわけどこに視線が抜けていくか、その先に何が望めるかを計画地に立ちながら考えている。雑多に建物が建て込む住宅街では、圧倒的な絶景を望めるものでもなく、どちらかと言えば周辺環境を感じながら、そこに暮らしているという実感を得るための窓や視線、建物の配置が大切な要素でもある。色々ある混ざり合った環境で暮らしているというある種の安心感が都市に暮らす魅力でもある。それぞれは自立して暮らしているが、どこか寄り添い合いながら、建物も人も共に暮らしている状況に都市に暮らすことの本質が隠れている。
敷地は京都の歴史地区に位置し、T字路の突き当りに位置する旗竿敷地は、奥行19Mほどある竿部分のアプローチを介し、その奥に広がる前庭から住居に入り込む。T字路の向こうには、世界遺産である下鴨神社の糺の森が垣間見れ、前庭の奥に構えた居場所から、糺の森まで一本の視線の抜けを感じられる配置とした。ちょうど隣地側も旗竿敷地であり、同じようにアプローチが緑地帯となっており、ふたつの緑地帯が混ざり合うことを意識している。視線の抜けを確保することで、プライバシーへの対処も必要となってくる。ここでは、19Mのアプローチと前庭が距離を生むことで、道路からの視線が気にならないようにしている。また、1間の軒深さをもった縁側を設け、簾などの目隠し要素を設けられるように、軒先側に柱と梁を設けることで治具的な意味合いと、内と外を曖昧にする要素としても働くように設えている。内部においては、3LDKを基本としたシンプルな構成としている。今回、階段室となる場所に壁一面の本棚を設け、動線の起点となる階段室を図書室として、コの字に折れ曲がる階段の踊り場や階段下の空間に小さな居場所を設けている。暮らしを豊かにするひとつとして、こうした余剰となる小さな居場所をプランに組み込むことで、人が空間に寄り添える関係をつくるようにしている。色々な人の感情を受け止める居場所として、小さな居場所は有効に機能してくれる。本来人間は、洞穴や竪穴式住居など、小さく囲まれた場所を生きる起点にしてきた歴史がある。どんなに時代が変わっても、人本来の空間への意識は変わらないものと信じている。
旗竿敷地の奥から庭を介して遠く周辺環境へと視線と意識を向けるかたちは、ちょうど生き物が穴倉から外の気配ー社会をうかがう姿と重なり、囲まれた安心感と、それでも外へと意識を向けることのできる場所として考えている。人が住まう原初の居場所とは、囲いと抜けが両立する両義的な質をもった場所である。
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